相続遺言・前編
相続とは?
相続は死亡によって開始します
相続とは、その亡くなった人(被相続人)の死亡した時点での
すべての財産に関する権利と義務を引きつぐことです。
引きつぐものは、具体的には何ですか?
<不動産> 土地、建物など <動 産> 現金、預貯金、自動車、骨董品、株式など <権 利> 著作権、特許権など <債 務> 借入金、保証人としての債務など
人が亡くなって相続が開始したあとの流れは?
※ 役所関係で必要な主な手続きをあげてみました。
期間については、いずれも死亡したことを知った日からとなります。
死 亡(相続の開始)
「死亡届け」の提出 …(7日以内)
相続の放棄・限定承認 …(3ヶ月以内)
準確定申告(死亡者の確定申告)…(4ケ月以内)
相続税の申告・納付 …(10ケ月以内)
遺産の名義変更手続き …(期限の定め無し)
相続放棄・限定承認
相続の放棄・限定承認とはどういうことですか?
相続とは、すべての財産に関する権利と義務を引きつぐこととお話しました。
すべての財産というと人によってはマイナスの財産である借金だけが遺産となってしまう人もいらっしゃいます。
このようにマイナスの財産だけを残した人の相続人が家庭裁判所に申請して「相続放棄」を認められると『はじめから相続人とならなかった』ということになります。
たとえば、つぎのようなケースのときに相続人になる人は、相続放棄をしたほうが良いのかもしれません。
例)山田太郎さんは、1,200万円相当の自分名義の土地建物を持っていました。 けれども不況のために事業を失敗し、およそ2,000万円の借金も抱えていました。 こんな状況の中で無理がたたってしまい山田太郎さんは亡くなってしましました。
山田太郎さんの遺産は、1,200万円のプラス財産と2,000万円のマイナス財産です。
これらを合算すると800万円のマイナスになります。
相続人は、土地建物の不動産を引きつぐのと同時に借金も引きつぐことになりますので当然2,000万円の借金も引きつぐことになります。
合計したらマイナスになる遺産なんかを引きつぎたくはないと思ったら、山田太郎さんが亡くなったことを知った日から3カ月以内であれば、家庭裁判所で相続放棄の手続きをすることができます。
そして家庭裁判所から認められると「はじめから相続人とならなかった」ということになり、借金の返済を請求されるおそれがなくなります。
相続放棄は、相続人が自分だけの考えでできます
同じ被相続人の場合でも、人と状況によってはまったく違う選択をすることがあります。
例えばさきほどの山田太郎さんの場合、相続人は、長男と次男の2人だけでした。二男は学校をでてから都会で20年間もサラリーマン生活をしていましたので故郷の土地と建物には愛着がまったくありませんでした。ですから、借金だけを残した父親の遺産には、早々と相続放棄を決めて家庭裁判所で認められました。
一方、父親とずっと一緒に父の名義の土地と建物で生活してきた長男は、愛着のある土地と建物と一緒に借金も引きつぐことを決めました。(このようにすべての遺産を引きつぐことを法律用語では「単純承認」と呼びます)
単純承認、相続放棄の他に「限定承認」という手続きもあります。
これは、遺産を合計した結果プラスになったときには引きつぐがマイナスだったときには放棄をすることを希望する手続きです。
なんとなくお得な手続きかと思えます。
しかし、こちらは手続きが難しくて煩雑なことに加えて、相続人の全員一致で家庭裁判所に申請をしなければならないので実務上はほとんど利用されていません。
☆知っとくなっとく情報☆
質問)「亡くなったことを知ったとき」とはどんな意味ですか?「死亡した日」とどのように違うのですか?
答え)普通の相続人は、家族の死を当日か翌日くらいに知ること になりますが、日頃から亡くなった人と疎遠になっていたりして 何カ月も亡くなったことを知らなかったりすることもあります。 そんなときのために「知ったときから」となっているようです。
法定相続人
相続人は、誰ですか?
民法という法律には、亡くなった人の相続財産を引きつぐべき人について、はっきりと決められています(法定相続人)。
相続財産などの名義変更手続きをおこなうなかで、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍の提出を求められることも少なくありません。被相続人の一生涯の戸籍を確認することで、相続人となる人に間違いがないか、過不足がないかを確認できるからです。
この確認の作業で、だれも家族が知らなかった兄弟姉妹の存在をはじめて聞く人たちもときどきみられるようです。
相続人の決まりかたは、つぎのようになります。
被相続人の配偶者は、どんなときでも相続人となります。
- 被相続人に子供がいれば子供も相続人になります。
⇒ 相続人は、配偶者と子供 - 子供がいないときには、被相続人の父母(父母がいなければ祖父母)も相続人となります。
⇒ 相続人は、配偶者と父母 - 子供も父母などもいないときには、被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。
⇒ 相続人は、配偶者と兄弟姉妹
※ 相続人となる子供や兄弟姉妹が先に亡くなっている時には
その子供たちも相続人となることができます。(代襲相続)
※ 兄弟姉妹のときだけは、その子(甥や姪)達まで相続人になる。
法定相続分
遺産の取り分(法定相続分)の決まり方は?
被相続人と相続人との戸籍のつながりかた(夫婦、親子など)によって相続する遺産の取り分(法定相続分)の割合が決められています。
そして、その戸籍のつながりかたの組みあわせにより、遺産の取り分については、つぎのように民法で決められています。
①配偶者と子供のとき 配偶者 1/2 と 子供 1/2
②配偶者と父母など 配偶者 2/3 と 父母 1/3
③配偶者と兄弟姉妹 配偶者 3/4 と 兄弟姉妹 1/4
※ 配偶者が存在していないときは、
子供のみ → 父母などのみ → 兄弟姉妹のみ
の順番で相続人となります。
この取り分(法定相続分)とは、必ずこのように分けなければならないということではありません。ですから、相続人全員での話し合い(「遺産分割協議」といいます)で決めたように自由に分けることができます。
そして、この話し合いによって決まった内容を文書にしてすべての相続人が押印した書類のことを「遺産分割協議書」といいます。
他の相続人の承諾があれば、戦前の頃のように「長男が全部の遺産を相続する」という分けかたもまったく問題ありません。
法定相続分とは、話し合いで決めるときに「法律の上では、割合がこのように決まっていますよ」という参考にもなります。この法定相続分については、相続税額の計算や遺留分の算出のときなどにも必要となります。
相続人と相続分を具体例で・・・
それでは、相続人と相続分について、具体例をあげてお話しします。前橋一郎さんという家族を例にあげて説明したいと思います。
前橋一郎(58才)さんと花子(56才)さんのご夫婦があります。 先日、一郎さんは6,000万円の財産を残して亡くなりました。
家族構成によって相続人と法律で決められた相続分のパターンがいろいろあります。いろいろな組み合わせをつくり、つぎのような事例でみてみましょう。
- 事例【ケース①】
前橋一郎さんご夫婦には、長男の二郎(34才)さんと長女の桃子(32才)さん、
次女の桜子(30才)さんという子供たちがいます。
そして、一郎さんの母である梅子(80才)さんも健在です。
- 【ケース①】の場合
妻である花子さんと子供たち(二郎、桃子、桜子)が相続人となります。
相続分については、妻・花子さんは6,000万円の2分の1の3,000万円となります。3人の子供たちは、2分の1の3,000万円を3人でわけ1,000万円ずつになります。
母・梅子さんは、一郎さんに子供たちがいるので相続人にはなりません。
また、このときに仮に桃子さんが先に亡くなっていたとしても桃子さんに子供(一郎さんの孫)がいれば桃子さんの分の1,000万円は、お孫さんが相続人となります。そして、桃子さんに2人の子どもがいたならばそれぞれ500万円ずつ相続することになります。
- 事例【ケース②】
前橋一郎さんご夫婦には、子供がいませんでした。
一郎さんの母・梅子(80才)さんは健在です。
⇒ 【ケース②】の場合
妻・花子さんと母・梅子さんが相続人となります。
相続分については、妻・花子さんは6,000万円の3分の2の4,000万円です。
母・梅子さんは3分の1の2,000万円となります。
- 事例【ケース③】
前橋一郎さんご夫婦には、子供が一人もません。
一郎さんの母・梅子さんも3年前に亡くなっています。
一郎さんには弟・竹男さん(57才)がいます。
⇒ 【ケース③】の場合
妻である花子さんと弟の竹男さんが相続人となります。
相続分については、妻 花子さんは6,000万円の4分の3の4,500万円となります。弟の竹男さんは4分の1の1,500万円となります。
☆知っとくなっとく情報☆
相続で、不動産や預貯金などの遺産の名義変更をするときには、他の相続人の承諾があることを証明するために相続人全員の実印の押印と印鑑証明書の提示が必要になることがほとんどです。
このときに相続人の一人でも行方不明で連絡がつかない人がいたりするとまた大仕事になってしまいます。期間や状況によって「失踪宣告」や「不在者財産管理人」の手続きをしたりするために家庭裁判所に行く必要がでてきます。
★つぶやき 相続人の数が多くなると、大変なんですよねぇ。
相続人(被相続人)
こんな人は、相続人(被相続人)になりません。
- 内縁の夫婦、事実婚の夫婦の相手
- 配偶者の連れ子で養子にしていない同居の子
- 昨日、離婚届けを提出して別れた妻
- 愛人が自分の子供を生んだが、まだ認知をしてない子
- 40年間一緒に暮らしている息子の嫁
- 特別養子に出した実の子
この人だって相続人(被相続人)です。
- 普通養子にいった人の養親と実親(両方に相続権があります)
- 別れた妻が生んで妻と暮らしている自分の子供
- 20年間の別居生活を続けている戸籍上だけの夫
- まだ生まれていないがおなかの中にいる子供
- 既に離婚した相手と結婚をしたときに相手の連れ子と養子縁組をしたのに、離婚届けのときに別途で養子縁組の解消をしてない養子
法律のなかでは、こうなっています
配偶者や子供でも、戸籍上のつながりのある人しか相続人とはなれません。
どんなに長い年月いっしょに暮らして夫婦や親子同然に生きてきていても戸籍のうえで夫婦や親子などと記載されていなければ相続関係があると認められないのが現在の法律です。
逆に、すっかり仲たがいして犬猿の仲になっていても役所の手続きで離縁(婚)などをしていなければ相続人被相続人の関係となります。
いざ相続になったときにはこのように縁を切ったつもりの人のハンコをもらわなければなりませんのでトラブルになるのはあきらかでしょう。
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